外国人ゲストによる講演会2回目 (令和 5年 3月 5日)

◆外国人ゲストによる講演会2回目 (令和5年3月5日)

府中町国際交流協会は、3月5日、本年度第二回目となる「外国人ゲストによる講演会」をくすのきプラザに於いて実施し、24名の会員、一般参加者に御来場頂きました。(実施にあたっては、新型コロナウィルス感染状況を踏まえた府中町のコロナ対策に準じる形で、感染拡大防止のための措置を取りました。)今回のゲスト、エリック・パイル氏は米国カンザス州のご出身です。「From Small Town Kansas to Japan(カンザスの小さな町から日本へ)」というタイトルが示すように青年期まで過ごされたハッチンソンという町の様子や日本に来られることになった経緯を中心にお話し頂きました。米国のほぼど真ん中に位置するカンザス州ですが、19世紀後半、アーカンソー川沿いに主要鉄道の駅を建設する目的で同州北東部に作られたハッチンソンは、1950年代時点で人口3万人を僅かに超える程度の典型的な米国の地方の小さな町でした。「シンプルで、安全で、罪のない町。美術館やオーケストラ等文化的要素は何もない。学校の質は高くないが、問題児はおらずいじめもない、子供たちは暴力や変質者に怯えることなく裸足で町中を何の屈託もなく走り回っていた。」とパイル氏は回顧します。そんなハッチンソンにも二つの文化・教育拠点がありました。一つは、米国鉄鋼王で慈善活動家としても知られるアンドリュー・カーネギー氏から寄贈された図書館であり、もう一つはハッチンソンで見つかった岩塩坑から製塩業で財を成したケリー一族の一人、パット・ケリー女史が設立した Cosmosphere(宇宙科学博物館)でした。パイル氏が美術書を通じてフランスやイタリアの古今の優れた美術作品を知り、更に初めて北斎や広重による日本の浮世絵を目にしたのもカーネギー図書館に於いてでした。宇宙ロケットには関心のなかったパイル氏でしたが、宇宙科学博物館が彼に提供してくれたのは学芸員として働く経済機会でした。これらの経験が美術専攻を志すパイル氏の世界観に影響を与え、外の世界に目を向け、シカゴ、ニューヨーク、ロンドンといった大きな世界に飛び出すための手助けをしてくれたようです。大学・大学院で美術、哲学、宗教等を専攻し、ニューヨークのメトロポリタン美術館や著名な画商に勤務したパイル氏は、世界一流の芸術作品を間近で見ることが出来たのは極めて貴重な経験であったと語りました。こののち、同氏は英語を教えるため日本に来ることになります。普通の英会話講師に飽き足らなかった同氏は、自身の専門を活かして美術史や文学の講師として活躍。並行して日本の大学で博士号も取得しました。現在は、いろいろな私設講座を主宰する傍ら、長年の憧れであった「文人」のような生活が出来るよう日々精進しているそうです。パイル氏の講演は、米国地方都市(町)で育った少年がどのように広い世界へ目を向けることになるかを教えてくれる大変示唆に富んだものでした。同氏によると、昔ハッチンソンの目抜き通りは端から端までが見通せるほど短く、そこにあるのは食料品店、食堂、小さな映画館、銃器・貴金属店等だけだったそうです。今では郡内最大の都市に成長し、市庁舎、大学、美術館、空港、動物園まであるそうですが、ハッチンソンの発展の過程でカーネギー図書館(注:カーネギー氏は、ハッチンソンだけでなく、図書館設置を希望する全米 2500余の地方自治体に図書館を寄贈した。)や、宇宙科学博物館が全てではなかったにせよ、一役買っているであろうことは大変興味深い点です。米国のフィランソロピー(利他的社会貢献活動)のあり方についても考えさせられる講演でした。なお、米国カンザス州と聞くと「オズの魔法使い」を思い出す方も多いのではないでしょうか。パイル氏の講演も、竜巻に巻き上げられるドロシーの家のイラストとともに始まりました。楽しく示唆に富む講演をして下さったパイル氏、また積極的に質問やコメントを下さった来場者の皆様に御礼申し上げます。

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